朔月
大切な人が死にました。
大切な人を殺しました。
「何故そんなにも辛そうなの?」
と、ソイツは訊いた。
「何云ってんのオマエ?……知らねぇよ、消えろ」
本当はその答えを知っていたが知らないと答えた。
忘れたかった。
思い出すことすら出来ない程に常に考えているというのに。
「誰も、貴方がそんな風に苦しむ事を望んでなんていないのに」
「……はぁ?」
ソイツは同情心丸出しの顔をして、目に涙まで浮かべている。
ああウザい。ウザい。ウザい。
何でも知っているという顔をしてアナタノ気持チハヨクワカルなんてくだらない事云って本当に理解ってるんだったら絶対云わないような台詞を平気で口にして自分はこの人を励ましてあげたんだと勝手に自己満足してこっちがどれだけ迷惑してるかなんて全く考えずに去っていくような奴等にはいい加減反吐が出そうだ。
「何なの、オマエ?いいかげんにしてくんない、」
「――…神様って信じる?」
ソイツはオレの質問には答えず、そんな事を訊いてきた。
「は?何でそんなモン信じなきゃなんねェの」
そんな役に立たないもの信じたって、何の足しにもならない。存在を信じない、のではなく信用してない。存在だって信じてねェけど。
そう云うとソイツは微笑った。
「神に、なる気はない?」
だからオレは笑う。
「アタマ湧いてんじゃねぇのオマエ」
――嘲う。
「…………」
ソイツは何も云わないでオレを見て、オレはその目を見て笑うのをやめた。
「――何、オマエ」
その目が、あまりにも真剣すぎたから。
「私は小春、月下神社に住まう神」
まっすぐに、オレを見て。
「貴方を、神として迎える為に来たのよ。朔月」
そう、云った。
朔月【さくげつ】はじまりの月。
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