対峙

 ぱしんっ。
 乾いた音が響いた。
「……痛いな」
 赤くなった頬を押さえる事もせず、朔月は自分を叩いた相手を見た。
「なんで、オマエに打たれなきゃなんない訳?」
「解ってないなんて、言わせないわよ」
 朱明の言葉に、朔月は可笑しそうにくつりと笑う。
「オレが人を殺したからって、オマエに怒られる理由にはならねぇよなぁ?」
「あんた、本当に人を殺して、許されると思ってんの?」
「許すって、誰が?カミサマか?それならオレが許してるから良いんじゃねぇの」
「不戯化ないで」
 朱明は朔月を睨みつける。けれど朔月は、笑みを崩さない。
「毎回何言ってんのオマエ?オレは初めから殺すって言ったじゃねぇか。それを受け入れたのはオマエ等だろ。現にオマエ以外は何も言わねぇ」
 そこで急に笑みを消すと、朱明の顔を覗き込むようにして、言った。
「そんなに気にいらねぇんなら、オマエが消えれば?」
「……っ、」
 その目の恐さに、朱明は言葉を返せなかった。それを見た朔月は外へと行ってしまう。
 残された朱明は俯き、そして、
「――そんな事、」
 呟いたが、その声が誰かに届く事は無い。



対峙【たいじ】向かい合って立つこと。にらみあって対立すること。

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